【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「恭也君……
真人にあってもいい?
昨日はちゃんと私も休んだわよ。
いつもより、
ぐっすり眠れた感じがする。
真人の傍でも安心できるけど、
恭也君の傍は昔から格別だから」
そうやって微笑みかけてくれる神楽さん。
年上なのに、時折
可愛らしい守りたくなるようにな存在へと
表情を変えていく彼女。
今なら……彼女に触れてもいい?
抱きしめられなくても、
彼女を少しでも感じたいから。
わざと彼女の息が感じられるように
体を近づけて、
彼女の首筋にゆっくりと振れる俺の指先。
指先が彼女の触れた途端に、
それは真剣な彼女の体調を
読み取る手掛かりと姿を変えてしまうけど
それだけでも……今の俺には、贅沢な時間。
この手からすり抜けてしまった存在に、
こうして触れることが出来る大切なひと時。
そのまま首筋から瞼を確認するように
指先は、義務的に移動していく。
ただ成されるがままに、
その体を委ねてくれる無防備な彼女。
「いいよ。
来たばかりの時に比べたら、
大分、神楽さんの状態も回復して来たみたい。
準備が出来たら、一緒に病院に行こう。
俺も真人君の様子が気になるし、
昼までには顔出しとかないと、
勇生から文句言われそうだしな」
わざと……思っている欲とは裏腹に
距離感を感じさせるように言葉を選ぶ。
あの時と今は違うのだと、
自分自身を抑制するように。
「あっ、ちょっと待って」
そう言うと、鞄の中から何時ものように
今日の飲み薬を神楽さんへと手渡す。
「何時まで飲むの?
私、お薬……嫌いなんだけど」
少し不貞腐れたように紡ぐ彼女。
「後もう少し。
神楽さんが飲んでる薬より真人の方が多いよ。
真人に告げ口しようかな。
お母さんが、先生の薬嫌がって飲まないよって」
思わず呼び捨てにしてしまった子供の名前。
脳内変換では、
先生の部分が俺になってしまっている辺り
自分でも呆れるほどの、神楽病だな……。