【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「先生、約束おぼえてる?」
酸素マスク越しに
曇った声で告げる真人。
「覚えてるよ。
元気になったら出掛けよう。
遊園地だったよな。
先生、時間作るからな。
男同士の約束だから、
嘘はつかないよ」
真人が喜ぶ言葉を告げて、
恭也君は私に会釈して、
病室を出て行く。
「真人、少し待ってて。
ママ、恭也先生と話してくるから」
口早に告げると、
恭也君の後を追いかけて
病室の扉を開ける。
「恭也君。
さっきの話だけど……
真人には言い聞かせるから、
無理しなくていいのよ」
こんな言い方しかできない。
本当は……
一緒に家族旅行なんてしてしまったら、
私が離れられなくなりそうで。
「神楽さん、
真人君には例え一瞬の時間でも、
お父さんの存在が必要なんだと思う。
俺もやりたいんだ。
夢でもいい。
本当にお父さんになれなくてもいい。
家族ごっこでいいから、
真人とそんな時間を過ごしたいんだ」
恭也にそうやって言い返されてしまうと、
私はそれ以上は何も言えなくなってしまう。