【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「神楽さん、
本当は言わないでいようか思ってたけど、
知ってた?
真人君、学校で男の子がピアノをしてるってことに対して
クラスの男の子たちに苛められてたみたいなんだ」
そうやって教えられた
私の知らない真人の一面に驚きを隠せなくなる。
そんなこと、私の前では
真人は一度も話してくれなかった。
毎日毎日、
私の知ってる真人は楽しそうに
スタインウェイを奏でる。
真人の音色は、ピアノが大好きだって
私に伝えてくれるのに、
学校でそんなことが
あったなんて知らなかった。
「真人が……恭也君には
話したの?
その話……」
思い悩むように呟く言葉。
母親だけでしっかりと
育てて来てるつもりだった。
だけどそれは……私のエゴで
真人には父親の存在が必要なの?
私にはそんな素振り、
見せることがないのに、
心の奥底では、父親の存在を求めてるって
そう言うことなの?
「神楽さん……。
神楽さん?
思い悩まなくていい。
悪いのは俺だから。
真人を苦しめてるのも、神楽さんに苦労させてるのも
俺自身だから。
神楽さんは十分に母親の役割をしてくれてる。
あんなに立派に育ててくれてる。
だからそれと
今回の一件は別物だと考えよう。
母親は母親にしか出来ないことが沢山あるし、
父親もまたそれしかりだと、俺は思うんだ。
俺はこんな形でも、真人君から本音を聞くことが出来て
嬉しかったよ。
今は……ここに居る時間だけは、
神楽さんも、肩を張らなくていいんだよ。
今は俺が、神楽さんの荷物を半分は持つから」
恭也の言葉は、何処までも優しい。