【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
リストの愛の夢。
インペリアル独特の、
厚みのある音色が
美しく共鳴しながら
空間を振動していく。
拍手と共に愛の夢が終わった後、
ゆっくりとその場から
お辞儀をして立ち去ろうとした私に
ツカツカと近づいてくるハイヒールの音。
それと同時に、
バシーンと弾ける左頬。
「アナタが居るから。
アナタがまた現れるから」
鬼の形相で睨みつけるのは、
忘れるなんて出来ない
祐天寺昭乃。
「目障りなのよ。
その命が尽きるまで、
私の意味がわからないの?」
取り乱したように叫ぶ、
昭乃さんの状況に、
周囲に居た患者さんや付き添いの人たちが
遠巻きに囲み始める。
「祐天寺さん……。
貴方が思ってるようなことには
なってないわ。
だから落ち着いて」
今にもそのまま両手を首元に伸ばして
絞めそうな衝動の彼女を宥めながら、
それ以上、被害が及ばないようにと
少しずつその場所から離れるように試みる。
「いいわ。
貴女を苦しめるのにもっとも効果的なのは、
貴女の子供。
居るんでしょう?
特別室に入院しているあの子の首を絞めることが出来たら
どれだけ快感かしら?
私を苦しめ続ける貴女だもの。
私の幸せを奪い続ける貴女だもの。
同じ目にあわせてあげる」
そう言うと、祐天寺さんは
その場所から走り出して、特別室がある場所へと
走り去っていく。
手を伸ばして、
掴み取ろうとして失敗した私の腕は
宙をかすめて、
慌てて追いかけるように
階段を駆け上がっていく。
「祐天寺さん。
真人は、真人は関係ないでしょ」