【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「それで、恭也話って?」

「あぁ」



そう言いながらなかなか
切り出せないでいる。



入籍することも出来ない。

今の家族を
捨てることも出来ない。



だけど彼女の願いを
一つだけ、叶えたい。



叶えたいって言うより、
俺自身のケジメ。



「神楽ちゃんのことだろ。
 恭也」


そうやってなかなか切り出せない俺を
サクっと切る勇生。


「神楽さんにウェディングドレスを
 着せてやりたいんだ。

 俺は今も、彼女を愛してる。

 愛だけじゃどうにもならないこともあるのも
 身をもって知った。

 だけど……俺が、行動を起こさない限り
 彼女は、一生ウェディングドレスを
 着ることもないと思うんだ。

 彼女が憧れ続けた真っ白なドレスを
 俺は、彼女に着せてやりたい。

 
 退院の前夜。

 彼女と結婚式を挙げて、退院の日
 真人君と3人で、最初で最後の家族旅行をする。

 それで神楽さんから、
 卒業しようと思う。

 今の家族と向き合うために」



俺のエゴかも知れない。
彼女を利用しようとしてるだけかも知れない。


それでも……
こんな形でしか、俺は彼女に罪を償えない。



「わかったよ。
 
 恭也の止まった時間がそれで動くなら
 協力してやる」


勇生が静かに告げる。


今も口を閉ざしたままの雄矢へと
視線を移す。


< 269 / 317 >

この作品をシェア

pagetop