【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


私が奪い続けた時間は、
もう二度とやり直すことは出来ない。


そう思った時から、
恭也君と深く交わるのをやめた。


勇生君には『無理してない?』なんて言われたけど
だからってこれ以上、恭也君に甘えることは出来ない。

真人の手術の経過は順調で、
検査でも問題なくなってきていた。


二学期には間に合わなかったけど、
病院内のスクールや、夏休の間に冬生君が
勉強を見てくれていたから、地元の学校に戻っても
ついていけないことはないと思う。



だからちゃんと伝えよう。

退院と同時に、
私たちは、私たちの町へ帰るから。


真人との約束も、
守らなくていいから。



恭也の温もりを感じ続けることが出来た
二か月は、
私にとって忘れられない時間になった。



「真人君、後一週間で退院できるよ。
 小学校でもお友達と走り回っていいぞ」

「本当?」

「あぁ、大人になった時。弁を新しくする手術はしないといけないけどな。
 だけど後は大丈夫だ。
 元気に走れるぞ」

「やったぁ。ママ、僕クラス対抗のリレーにでれるね。
 先生、あの約束は?遊園地はいつ行くの?」

嬉しそうに話す真人。
だけどそれは出来ない。

はっきりと伝えようと息を吸い込んで口を開けた時、
恭也君が先に話し出した。


「遊園地の約束、もちろん覚えてるぞ。
 けどママの許可がないと先生も勝手に出来ないだろう。
 真人君がママを説得してくれよ。
 そしたら、退院の日に先生と一緒に遊園地だ」


ズルいよ。

恭也君、そんな言い方されたら
何も言えないじゃない?

真人に『ママ、反対なんてしないよね』なんて目で見られたら
言いだせないじゃない。


病室を出て行く恭也君。
二人っきりになった病室。


「ママ、パパと出掛けられる家族旅行みたいに感じられるのかな?

 ここに来てから、先生本当にパパみたいだった。
 夜、目が覚めた時もそばにいてくれて、大きな手で頭なでて
 もう少しねなさいって。たくさんねむって、元気になったら
 ママがよろこぶよって。

 僕、パパはきらいだよ。
 僕とママよりお仕事がすきなパパはきらい。

 パパはいらないから、一日でいいの。
 先生とゆうえんちに行きたい」

「真人、無理いわないの。
 先生もお仕事忙しいのよ。
 真人みたいに苦しい思いをしてる人たちを大勢助けないといけないの」



諦めなさい。

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