【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
神楽さんが出てきたら、
どうやって、この話を切り出そうか
緊張感が募る俺自身の鼓動と向き合いながら。
シャワールームのドアが開く音がして、
暫くすると、『いただきました』っと俺に声をかけて
姿を見せる神楽さん。
同じようにバスタオルで髪を拭きながら
近づいてくる。
彼女は鏡の前に
ゆっくりと座って、
ドライヤーを手にした。
そんな彼女の後ろに立って、
彼女の柔らかな髪に触れる。
「貸して」
一言告げて、
彼女の手からドライヤーを掴み取ると
何も切り出せないまま、
無心に彼女の髪を乾かし続けた。
「恭也君……ごめんね」
ドライヤー越しに、
小さく呟く彼女の声。
「なんで謝るの?
俺は楽しかった。
この時間がこの先もずっと
続いてほしいよ。
家族って、
こんなに楽しい時間なんだな。
忘れてたよ。
ガキの頃の、そんな時間とか。
ここ暫く、あまりにも
時間が止まりすぎてたみたいだ」
必死の思いで切り出せた言葉。
ドライヤーを止めて、
彼女の正面に移動する。
彼女は俺が放したドライヤーを再び
手に取って、
髪を乾かすのを続けながら
沈黙を続けた。