【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



車に乗り込むと
エンジンをかける前に
恭也君は、
後部座席に乗る真人を見つめて
ゆっくりと告げた。




「楽しい時間を有難う。

 先生も真人君と1日だけだったけど
 家族ごっこが出来て楽しかったよ。

 真人君は、先生たちが手術したから
 もっともっと元気になる。

 向こうに帰ったら、
 松崎先生の言うことをよく聞いて
 ママの言うこともちゃんと聞くんだぞ。

 真人君の病気は、大人になるまで
 何回も心臓の検査をしなきゃいけない。

 また心臓に問題が出来たら、
 すぐに先生のところに来てくれたらいい。

 先生や勇生先生が、絶対に助けるから。
 でも、大丈夫だよ。

 先生がずっと、祈っててあげるから。

 だけど大人になったら、
 もう一度、
 心臓の手術をしなくちゃいけない。
 
 その時はまた、
 先生たちがするから、
 心配しなくていいよ」
 



そうやってゆっくりと
言い聞かせるように伝える
恭也君の言葉を
真剣な眼差しで頷きながら受け止める真人。




「うん。

 先生、お父さんになってくれてありがとう。
 楽しかった。

 ぼく、大きくなったら
 先生みたいなお医者様になる」


「あぁ。
 先生も待ってる。

 お医者様になったら、
 先生の病院で一緒に働こうな。

 約束だぞ」



そう言いながら、
真人と話す恭也君は
嬉しそうに、
遠い未来を夢見るように
笑ってた。




何時か……親子を越えた
深い時間が、再び交わればいい。


そんな風にさえ、
思わせてくれた。


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