【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
最終章 深絆
1.運命の旅行 ~失われた親友 伝える想い~ -恭也-
真人の手術から一年と少しが過ぎた。
俺は、今も離れて暮らす家族の事を思いながら
病院と現実の家族を守るために
日々を奔走し続ける。
それが彼女の願いだから……。
離れて暮らし続けるこの一年間。
約束通り、
息子の主治医を受け持ってくれた
松崎からは今も定期的に届けられる。
松崎から送られる真人の診察記録を見つめながら
日々、元気になって行く真人を感じ安堵する。
一方、地元に帰った後の神楽さんからは、
一週間に一度、定期メールが入ってくる。
そのメールの中には、
成長していく真人の姿。
その写真に映る真人は、
一年の間に大きく成長しているのが感じ取れた。
勇生が言ってたか……。
『ガキの成長は早いんだよ』って。
病院の経営を軌道に乗せるために
勇生にも、
美雪さんにもかなりキツイ目にあわせて来た。
勝矢が生まれた時は、
父親の自覚も親としての自覚も何も考えられなかった。
だけど……彼女が、
真人を連れて来てくれて
ほんの少しだけ、俺にも……親の気持ちが、
わかったような気がした。
だからこそ見えて来た現実。
だからこそ、この後に続く
病院経営に求められる最大の課題。
依頼人(クライアント)である患者の
期待に添える病院であると共に、
現場の人間にも仕事をしやすいそんな環境が
今のうちには足りないのかも知れない。
人員を増やすリスクは多くても、
人員を確保できないと、
長く勤めて貰える環境にはならない。
勇生みたいに……
美雪さんみたいに、
気が付いたら子供が大きくなってました。
子供の事を知ったつもりでも
何も知らないまま大人にさせてしまいました……なんて
させちゃいけないんだ。
真人と離れていても、
こんなにも子供の事が気になるんだ。
近くに居るのに、
我が子を見守ることが出来ない職場が
どんなに過酷な場所か……
そんなことにすら気が付くことも出来なかった。
写真の中で元気に駆け回る
真人を見つめながら、
一つの決意を胸に固める。
いつか……
この病院は真人と勇生の息子、
冬生に託したい。
勝矢は祐天寺の人間だ。
その為に、
アイツには経営面の勉強に力を入れさせたい。
祐天寺での俺の権限を、
全て勝矢に返して
俺自身は多久馬だけに専念したい。
勇生の息子、冬生も
この春から俺たちが卒業した
母校の医大へと推薦入学することが決まった。
それを聞いて、
俺が親友の為に出来る事はただ一つ。
勇生と美雪さんを
父親と母親にさせてやりたいと思った。
18歳なんて、もう家族の事よりも彼女とか、
他の存在が忙しいかも知れないけど
家族でずっと行きたがっていたであろう家族旅行。
俺自身に置き換えた時、
真実を隠してでも、
一緒に遊園地で過ごせた家族ごっこの時間が
大きかったから。
謝罪とお祝いと2つの心を織り込んで。