【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
そう言うと真人はすぐに姿を消した。
真人が居なくなった部屋で、
その後も一時間のお稽古をつけて
私はキッチンへと向かう。
その後、真人と二人でゆっくりと
時間を過ごしながら食べる晩御飯。
こんな穏やかな時間がずっと続くと思っていたのに、
運命の朝は、音もなく忍び寄ってくる。
早朝。
まだ辺りが真っ暗な時間、
突然私たちを襲った激しい縦揺れ。
真っ暗な部屋の中、掛布団だけを頭にかぶして
必死の思いで向かう我が子の部屋。
暗闇の中、伝わる振動に
食器などが次々と壊れていく物音だけが
周囲に響いていく。
「真人っ!!
真人、何処?」
必死の思いで絞り出す
最愛の息子の名前。
「母さんは平気?
僕は大丈夫。
ベッドと本棚の間にスペースが出来てるから。
だけど足が挟まれちゃって
動けないけど」
そう言う息子の声に慌てて駆け寄って、
暗闇の中、
本棚から落ちてしまった本を手さぐりで退けようとする。
揺れは何度も何度も長い時間襲い掛かる。
その度に、せっかく取り除いた本も
もう一度崩れ落ちてしまう。
それでも諦めるなんて出来ない。
「真人、待ってね。
すぐに本棚をのけてあげるから」
自分の足が
割れた食器の上を踏んだような気もしながら、
それでも意識は真人の事しか考えられなくて
必死に手さぐりで、本棚周辺のものをのけていく。
自分の身を守るために
申し訳程度にかぶっていた掛布団も何時しか放り出して。
その直後、更に大きな揺れが襲い掛かって
私は、ポロポロと剥がれ落ちるような音を感じるのと同時に
壁に立てかけてあった箪笥が、
倒れて私を直撃したのを感じた。
『母さん、母さん?』
真人の声が微かに聞こえる。