【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



そのまま真人を抱きかかえて、
一度、多久馬へとヘリで真人を搬送して
用意して貰っていた特別室へと眠らせる。


大学から帰って来た冬生を捕まえて、
時間がある時だけ、
真人の傍に居て欲しいと伝える。



そのまま、もう一度物資を手に
ヘリの方へと向かう。



その場所から
自宅にいれる一本の電話。





「はい。
 多久馬です」

「昭乃、頼みがある。

 神楽さんと俺の間の子を
 家族として迎え入れたい。

 今まで君を蔑ろにして来たことも、
 謝罪する。

 神楽が死んだんだ。

 あの子は、
 真人は一人になってしまう」


「アナタがお決めになったことでしょう。

 養子にするもしないも、
 私に決める権利はありません。

 勝矢のことを家族として受け入れてくれたように、
 私も今回だけは受け止めます。

 ただし、私の愛がその子へと向けられるとは
 思わないでください。

 貴方の愛が、私と勝矢に向けられなかったように。
 それでもいいのでしたら、ご自由に」 


それだけを告げられて、
切られた電話。



心までは……。


そうかもしれない。

それ以上を求めるのは、
難しいだろう。


俺自身がそうだったように。



形だけでもいい。

俺が真人だけを
真っ直ぐに愛することが出来れば。



そのままヘリに乗り込んで
最後の見送りために、
現地へと向かう。


ようやく現地に戻った俺は、
すでに恋華ちゃんの手によって
綺麗な服に着替えて
棺の中で眠ってしまった
彼女の元へと姿を見せた。

遺族が自主的に手配して
最後の旅立ちの場所に向かう棺。

火葬が追い付かなくて、
周辺地域の火葬場へと、
家族が付き添うことが許されないままに
自衛隊の協力で見送られる沢山の棺。


彼女、神楽さんが眠りにつく棺も
自衛隊によって近隣の県に空輸されて
火葬されることが決まった。


車両の前で最後の別れを済ませる
遺族たちと同じように、
その場所で彼女を見送る。


その後、遺骨となった彼女が再び
俺の元に戻ってくるまで、
俺は人手の足りない検視業務を手伝いながら
大勢の遺族たちの死亡診断書を書いていく。


震災時においての災害死も、
検視なしでは、
埋葬許可がおりることはない。


遺体と向き合いながら不安の中をイライラする
被災者である遺族たちが、
埋葬の後は、心が落ち着いていくと言う
論文を思い出す。


そしてこうして、彼女を送り出した今
俺自身が取り乱すことなく、
冷静に全てを受け入れて対応できているから。


少しでも安らげる
そんな穏やかな日々を取り戻してほしくて。



神楽さんを見送って数日後、
小さな骨壺におさめられて、
彼女の遺骨は俺の手元へと帰って来た。


その後、協力できる検視だけを終えて
恋華ちゃんと連絡をとって、
彼女の祖母が眠る場所へと
彼女を連れて行く。



潮風が冷たく吹き付ける
その小高い丘の上に立つ墓石。

その墓石の扉をゆっくりとあけて、
彼女の骨壺をゆっくりとその中へおさめた。

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