【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




「恭也。
 恭也も、もう大学一年生だ。

 最近の恭也を見ていると
 うすうす、気が付くものはあった。

 母さんと話していたんだ。
 恋をしていそうだなって」





ゆっくりと
そうやって切り出す親父。


その隣で黙って耳を傾けるおふくろ。




「恭也、恋を楽しむのもいい。

 だが、今のお前は大学生だ。
 社会的に責任がとれる立場ではない。
 
 くれぐれも肝に銘じて
 楽しみなさい。

 万が一……相手の心に、
 深い傷を残すようなことな
 恥じる行為は決してせぬように」





そう問いかける親父の言葉に、
俺自身は昨夜の行為を思い返して
血の気が引く思いをした。




やべっ。
コンドーム使ってない……。




何もかも、
見透かされているようで
気まずくなりつつ
誤魔化すように朝食の箸を進めた。




「恭也。

 もし貴方が
 本当に好きな人と巡り合えたなら
家に連れてきなさい。

 こそこそ、
 隠れて先方にご迷惑かけるなんて
 しないでちょうだい」





やんわりと……釘を刺された俺は、
食べ終えた朝食の食器を流しに下げると
シャワーを浴びて、大学へ行く準備をする。



何度も出る欠伸に、
ブラックミントガムを噛みながら
いつもの時間に家を飛び出す。





最寄駅には、勇生と雄矢。




「「おはよう」」

「おはよう」



なんて言いながら、
やっぱり止まらない欠伸。



「昨日はあの後……
 お泊りコース?

 そのまま狼になって
 食べちゃったとか?」


をいっ。

勇生……
ストレートになんで言うかな。



「なぁ、雄矢。

 言い返さないところ見たら、
 送り狼決定みたいだな。

 ポケットに忍ばせてる、
 お守りは使えたんだな」



勇生、黙れっ。

声がデカイよ。



そのまま二人を無視するように、
改札口を通過すると、
勇生と雄矢も俺を追うように
後に続く。



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