【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

12.母が倒れた日 - 恭也 -




過呼吸で調子を崩した神楽さんも
その後は特に体調を悪化させることもなくて
次の日、自宅に帰ることになった。


神楽さんから聞き出すことは出来ない。


だけど……
あのピアニスト親子がTVに出た途端に
発作を起こした。


それが気になって仕方なかった。




俺に何かが出来るわけじゃない。


だけど……それでも、
彼女の秘密を知りたいと思った。



彼女の情報を知るのに使ったのは、
インターネット。



ネット上には膨大な量の情報が
溢れかえっている。




彼女の秘密を知るのには、
時間はかからなかった。




ネットの中で、あの親子と対を成すように
名前が出てくるのは、
藤本神楽(とうもと かぐら)という名前





藤本 智志(とうもと さとし)
藤本 結愛(とうもと ゆあ)
藤本 神楽(とうもと かぐら)
藤本 冴香(とうもと さえか)




決まってこの四人はセットのように
名前がヒットする。




そして、当時の新聞の切り抜きを
写真にとってあげている個人HP。



そのサイトは、
藤本ピアニストを応援するためのサイトで
小さい時からの一家の情報が
年表別にまとめられていた。




小さく映る写真の切り抜き。



白黒で映像的には
わかりにくいものであったけれど、
藤本神楽と当時呼ばれていた彼女が、
あの神楽さんなのだと言うことは
どの情報を検索しても明らかだった。



彼女の情報は、常に藤本ピアニスト夫妻の
名前とセットで出てくる。



そしてそれが、ある日を境に
ピタリと消滅した。





その時期以来、
藤本ピアニストと常にセットとなっていた名前の
神楽さんの名前は消えて、
今も騒がれている冴香のみの名前が
ジュニアとしてついてまわるようになった。







今の彼女の名前は……
結城神楽。




当時の名前は、
藤本神楽。





苗字が変わっている現状からして、
あの名前が消滅した前後に
彼女にとっての辛い体験があるように
感じられた。





今の俺には何も出来ない。





だけど……逆に言うと、
今の俺だからこそ
出来ることもあるんじゃないかと
親父の書斎から、分厚い心理学の本を手に取って
読み漁る。

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