【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
その隣には、私より遙かに大きい
スタインウェイの
グランドピアノが映っている。
「これって、
神楽さんのグランドピアノ?」
問われた問いかけに、
ゆっくりと首を横に振る。
「これは、お母さんのピアノ。
私のはこの時はまだないから。
多分、今頃……
アメリカで作られているところだと思う」
今では思い出すだけで
息が詰まりそうになるのに、
恭也君が隣にいて、
このアルバムを
ゆっくりとめくっている時だけは
こんなにも穏やかな気持ちになれる。
「そうなんだ。
まだ作られてるんだね」
めくられるアルバムは、
私のピアノが届いた時期になり、
大きなグランドピアノと一緒に
幼い日の自分の部屋で撮影している写真。
ピアノと一緒に生活してきたお稽古写真。
コンクールでショーをとった時の写真。
ジュニア作曲コンクールに
応募した自作曲の楽譜写真。
そういった、
ピアノと切っても切れなかった頃の
写真へと続き
その家族写真の中に、
やがて妹の冴香の笑顔が
交わるようになる。
冴香が大きくなり始めた頃からに、
家族の写真は減り……
アルバムには私、単体のみが映る写真か
景色を閉じ込めた写真が多くなった。