【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





「この頃なの……。

 私……ピアノ以外でも、
 両親に認めて欲しかったのね。

 ピアノだけが私と両親を繋いでる。
 そんな感じがしたの。

 だからそれが悲しくて。
 ピアノ以外のヤンチャ沢山したんだ。


 木登りやったり、
 ジャングルジムから飛び降りたり。

 ピアノの練習をさぼって、
 友達の家でゲームばっかりしてた時もあった。


 ボール遊びに夢中になった時もあった。


 全部……親の気がひきたくて
 その時の私は必死だったのよね。

 だけど……全部裏目に出ちゃった。


 遊んでる時に、手を骨折してからは
 その場で捨てられちゃった。


 ギブスと包帯で腕をグルグルにされてつられてる
 子供を病院に残して、帰っちゃったの。

 私を迎えに来てくれたのは、
 母方のお祖母ちゃんだった。

 お祖母ちゃんに連れられて、
 今のこの家にきた数日後、
 私の荷物だけが全部、この家に送られてきて
 それきり……今日まで音信不通。


 おばあちゃんのお葬式にも、
 お母さんは姿を見せなくて……
 私一人で近所の人と見送ったの」








小さく吐き出すように呟いた
私の昔話を、恭也君はただ黙って聞き届けてくれて
私を力強く抱きしめてくれた。







彼のぬくもりは、
確実に私の寂しさを溶かしてくれていた。







その夜も……彼は私を一人にしておけないからと
泊まってくれた。





久しぶりに彼と心も体も繋がった
そんな優しい夜だった。





翌日、彼を見送った私に職場から電話が入り
一か月の講師停止処分を通達された。




相手は……世界的に有名なピアニスト。
私は、一介の雇われ学生講師。


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