【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「神楽……倒れたのよ……。
 
 うちの教室、今謹慎中でしょ。

 例のあのピアニスト親子と揉めて。
 

ただの家族喧嘩じゃない?

 何が世間体よ。
 何が対面が悪いよ。


 事情も何も知らない会社の上司が
 相手のご機嫌取りに、
 神楽を追い詰めて。

謹慎がとけるまで、
 彼女、無収入で。

 一人暮らしだから、
 生活するには
 お金必要でしょ。


 それで少しでも早く稼ぎたいから、
ラウンジでピアノ演奏するバイトを
 始めたんだけど、
 ピアノもうまく奏でられるなくなってみたいで。


 過呼吸って言うの?
 教室で起こしたみたいになって、
 倒れちゃったって」





文香さんから語られた言葉は、
傍にいて 
支えられない
俺自身を深く責めさせていく。




「……今は?」


「今は引き籠ってる。

 私が電話をしても、
 出てくれないのよ。

 メールだって帰ってこない。


 心配になって、
 神楽の家に行くんだけど
家にいるような気はするのに、 
 出て来てくれないの。

 
 それで……大学の前で、
 待ち伏せして、恭也君に会おうと思ったの。

 そしたら勇生君が声をかけてくれて」




家の事で周囲に関われなくなった間に、
神楽さんの状態は、
もっと深刻な状況になってた。




助けたい。



力になりたい。





守りたい。




だけど……無力な学生の俺には、
まだ彼女を
助けられる力は持ってない。





悔しさに拳を震わせる。






俺が……
後少し早く生まれてたら。



もっと大人だったら。





すぐにでも
彼女を抱きしめに行けるのに。






「なぁ……、
 雄矢、勇生……俺に何が出来る?」




絞り出すような
声で静かに吐き出す言葉。












俺に何が出来る?







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