【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「ねぇ、恭也。
お前はどうしたいの?
神楽ちゃんと」
いつも少しふざけたように話す勇生が
俺に真剣に向き直って、突き付ける。
俺の気持ちは……
ただ一つ。
「……守りたい……」
そう彼女を守りたい。
震える神楽さんを
抱きしめて、
思いの全てを受け止めたい。
神楽さんが
少しでも笑えるように。
安らげるように。
凄く大人に見えるのに……
とても小さく感じる
その体を……寂しさに揺れる
その心を包み込んでやりたい。
「恭也。
お前の心は決まってる。
だったら一番身近な人を信じろよ。
恭也ん家のお父さんは、
理解力あると思うんだけど。
ウチの父さんと違ってさ」
「神楽さん。
女の人だろ。
しかも一人暮らしが長いなら、
家事とか出来ないかな?
恭也が苦戦してる家事を、
謹慎がとけるまでの短い時間でもいい。
手伝って貰って、
恭也も教えて貰ったら」
親友はそうやって……
一つの可能性を教えてくれた。
確かに……俺の家は、
母親の介護もあって、
男二人で家事に苦戦している。
ひっくり返った流し台。
焦げたフライパン。
洗ってるつもりでも、
汚れの落ちきらない食器。
洗濯のルールなんて知らないから
一緒に混ぜて洗って、
色移りした服。
縮んで着れなくなった服。
散々な……家庭事情。
それがもし、
改善されるなら、
そして……神楽さんと
一緒に住めるようになるなら。
甘いかも知れない。
本当に好きなら、
家も捨てて、大学もやめて
神楽さんと一緒に住めるように
行動を起こせばいいかも知れない。
だけど……
そんなことをしても、
神楽さんは喜ばないと思うし
かえって、自分を責めるような人で。
そして……それは、
俺自身が俺の目標も潰してしまうから。
だからこそ……
今は、勇生や雄矢が言う通り
父さんに相談してみよう。
憑き物が落ちたみたいに、
その場を後にした。
帰宅した俺は、
母さんの部屋に顔を出して
様子を見る。
母さんは父さんから
手渡されたらしい、
洗濯物をベッドにもたれるように座って
片手で畳んでくれていた。
思うように動けない体。
だけど……どれだけ時間がかかっても、
それは母さんのリハビリに繋がって
母さんにとっても『家事を一つ出来た』と言う
満足感にも繋がって。