【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「母さん、有難う。
今から父さんにも話そうと思うんだけど、
人助けだと思って、
一人、ウチによんでもいいかな?
ほらっ、前に雪の日に捻挫した年上の女の人
連れてきたよね。
あの人と今、付き合ってるんだ。
彼女、ちょっと今大変で。
一ヶ月でいい。
俺も……苦手な家事、こなせるように
覚えたいからさ」
そうやって素直に話した俺に、
母さんは『まぁ』っとゆっくり
口にした。
その瞳は、
とても優しい眼差しだった。
「有難う。
父さんにも話してくる。
父さんの許可も出たら、
俺、今日にでも迎えに行ってくるよ」
そう言って、洗濯物と格闘する
母さんの元を離れて、
父さんの居る診療所へ。
最後の患者さんが帰って、
後片付けをしていた
父さんの診察室に
顔を出した。
「おぉ、恭也。
帰ってきてたのか?
母さんは、
洗濯畳んでくれてたか?」
ドリップしたての
コーヒーをマグカップで口元に運びながら
カルテと睨めっこする父さん。
その隣、机に散らばった
今日のレセプトを整頓してまとめながら
ゆっくりと、その話題を切り出した。
守りたいと思う気持ち。
俺の葛藤。
彼女の現状。
全てを話し終わった俺に
父さんは、
『行って来い』っと
俺を送り出してくれた。
今、迎えに行くから。
貴女を守り抜くために。
部屋に戻って、
貴重品だけ掴み取ると、
慌てて家を飛び出す。
何度かお邪魔した
一人で過ごすには大きすぎる
彼女の自宅。
息を切らして辿り着いた
その部屋は、
灯り一つついていない。
チャイムを鳴らして、
彼女の名前を呼ぶ。
正面からダメだったら、
窓と言う窓を探して、
敷地の中にお邪魔して
声をかけ続ける。