【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
恭也君に逢いたくて……。
壊れてしまいそうな心を
必死に彼の温もりでを思い出しながら
抱きしめて……。
「おはよう……」
ベッドの中、
少し掠れた彼の声が降り注ぐ。
乱れたシーツを体に巻きつけるように
引き上げる私。
今も昨日の余韻が残る体。
何処までも優しく微笑む彼。
「ウチ……
来てくれるだろう?」
そうやって問いかけられたその言葉に、
静かに頷いた。
*
「神楽さん。
悪いが恭也を起こしてきてくれないか?」
誘われて一つ屋根の下。
突然の同居生活。
彼の両親は、
深く追求しようとせずに
私をこの家に受け入れてくれた。
朝、誰よりも早く起きて
朝食の準備をするのが一日の始まり。
その後、顔を出すのは
恭也君のお父さん。
お母さんの介護をしながら、
一緒にリビングに出て来て
椅子に座る二人。
家族が揃っても
一向に起きてこないのは
一人息子の彼だけ。
洗い物をする手をとめて、
エプロンで手を拭きながら
かけていくのは、
二階にある彼の部屋。
ノックをしても返事のないドアを
一気に開けると、
暗い部屋に入り込んで、
手探りで蛍光灯のスイッチをひっぱる。
机の上に散乱するのは、
読みかけるの分厚い医学書。
書きかけのノート。
「おはよう。
恭也君、朝だよ。
皆、下で待ってるけど……」
もぞもぞと動く恭也君の腕が
巻きつくように伸びて来て、
私をベッドへと近づける。