【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「結城先生の生徒さんだったんですねー。
あぁ、かっこいい男の子が生徒になるかなって
思ったんだけど……。
って言うか、結城先生この子彼氏ですか?
凄く若いですよね。
何処で見つけて来たんですか?」
俺に勧誘をかけて来た鹿島さんと言う女性に
質問攻めにされる神楽さん。
昔みたいに、ただ困るだけかなって思ってたのに
彼女は違った。
「いいでしょう?
きっかけは秘密だけど、
恭也はれっきとした私の彼氏だよ。
だからチョッカイ出さないでね」
「あぁ、結城先生ったら
御馳走様です。
今からデートですか?
楽しんできてくださいね」
そう言って、
鹿島さんは俺たちの前を後にした。
「ごめんね、 さっきの子、
鹿島って言って年は、恭也と同い年かな」
「少し話しかけられて、
驚いたけど……でも、正直俺、嬉しかった。
神楽が面と向かって、
俺を彼氏だって言いきってくれて」
「嬉しかったって、もう大げさだよ。
恭也以外の何処に、
私の彼氏がいるの?」
神楽さんはそうやって俺に笑いかける。
だけど……不安になるんだよ。
だけど……これからは、
お互い社会人?
そしたら……
そんなことにはならない?
俺は戸惑いながら、
嬉しさの勢いにのって
神楽の手を掴み取る。
一瞬びっくりしたような表情を見せた
彼女は、すぐにしっかりと俺の手を
絡め取るように握り返した。
二人で手を繋ぎながら歩いて行く商店街。
『ホテルを予約してるんだ』
思い切って伝えたい言葉が、
想うように伝えられない。
何度も喉元まで出かかって
そのまま飲み込んでしまう。
二人の間に続く沈黙を先に打ち消したのは
神楽さんの言葉。
「恭也、あの先のデパート入っていい?」
「デパート?」
「そう。
文香の旦那さんの行きつけのお店があるんだって。
下調べは事前にして、ここだったらって思えたから」
神楽さんはそう言うと、
俺の返事を待たずに、建物の中へと入っていく。
エレベーターで13階まであがった、
僕たちは、上品な雰囲気を持つお店へと足を踏み入れる。