【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「いらっしゃいませ」

「えっと、梶本の紹介で予約した結城と申します」



神楽さんが、紳士的な雰囲気を持つ
店主と話を始める。



「お待ちしておりました。
 結城神楽さまと、多久馬恭也さまですね。

 それでは奥のカウンセリングルームへと
 お願いします」


店主の言葉のままに、
飴色のドアを開けると、
そこにはガラステーブルと高級そうなソファー。

そして沢山のスーツのデザインと
布のサンプルらしきものが、
棚の中に整頓されていた。



「本日、結城さまよりご依頼がありましたのは
 多久馬様のスーツをと言うことですが、
当店でのラインナップはこの通りです」


デザイン画を見せながら、
ゆっくりと説明する店主。


ベーシックビジネスタイプ。

大人の為のスリムスーツがコンセプトの
イタリアン・クラシックタイプ。

フォーマルでもビジネスでも可能な、
ブリティッシュタイプ。

モダンなシルエットの、
トラッドタイプ。




スーツの形だけでも、
4種類もあって俺には
初体験で上手く選ぶことが出来ない




「いかかでじょうか?」


説明を終えた店主が、
俺たちに返答を求める。


俺は何も答えられなくて、
黙って神楽さんを見つめた。



「ご主人、それでは
 こちらのブリティッシュタイプのオーダーで。
 
 これでいい?
 恭也」

「あっ、うん……任せるよ」



そのまま神楽さんが選んでくれるままに、
俺のスーツのオーダーは進んでいく。

最後に、ネクタイを何本か選ぶと
神楽さんはその場で、
支払ってお店を後にした。




俺の為の買い物だったはずなのに、
俺は完全に浮いてた。



学生の俺と、社会人の神楽さん。

これも……今までの関係の
経験の差がそうさせるのか?




お店を後にした神楽さんは、
通い慣れた道を駅に向けて歩いて行こうとする。


そんな彼女を、
俺は『お茶に行こう』っと呼び止めた。


神楽さんもすぐに応じてくれて、
そのまま俺は、喫茶店ではなく
予約したホテルへと向かう。



ドアマンに迎えられて
ホテルの中へと入っていく俺に
ギュっとしがみ付くような素振りを見せながら
中へと入っていく。




「ちょっと、恭也?
 お茶でしょ?」


ひそひそと小さく呟く神楽さん。


そんな慌てる神楽さんを見つめながら
心の中でガッツポーズ。


そのままフロントへと向かう。



「すいません、
 予約している多久馬です」


フロントのスタッフがすぐに、
チェックイン業務を済ませると
カードキーを手渡す。


カードキーを受け取ると、
ベルボーイがすぐに部屋を案内するために
誘導する。



ベルボーイに連れられて、
景色が綺麗な高層階へと移動して
部屋の中へと入る。

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