【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
結婚。
研修中でも、結婚できるんだ。
そう言う、選択もあるんだと思いながら
その結婚が、恭也君の重荷になったら、
医者として駆け出し始めた大切な時期なのに
負担になってしまったらって思ったら、
自分から切り出すことも出来ない。
結婚してしまったら、
私の独占欲が大切な恭也を
潰してしまうかもしれない。
壊してしまうかもしれない。
だけど……離れすぎないで、
近づきすぎない今だから
私は恭也を自由にはばたかせてあげる。
恭也には、恭也の可能性がある。
そんな恭也の前に広がる可能性を
私が、自分のエゴで潰すなんて
出来ないし、やっちゃいけないのだと
何度も何度も、必死に言い聞かせる。
だけど……結婚願望がないわけじゃない。
私だって、真っ白なウェディングに憧れる。
貸衣装屋さんにズラリと並べられる
純白のドレスを、ショーウィンドウ越しに見つめる。
じっと見つめる私に、
何度もスタッフがチラシを手に
中に誘いに来るけど、私はただ首を横に振って
逃げ出すようにその場から立ち去る。
私がウェディングドレスを選ぶとき、
恭也は、どんな顔をして見守ってくれるかな?
どんなデザインのドレスを
私は選ぶんだろう?
どんなメイクで、笑うんだろう?
そんな未来に焦がれるように
想像する時間。
そんな時間は、
自然と私の頬を緩ませる。
「って、神楽。
アンタ、何してるの?
三十路になるのは早いのよ。
恭也君、大学は卒業したんでしょ?
あの子もあの子よ。
どうしてプロポーズして、
神楽を掻っ攫わないのよ。
この間、びっくりしたんだから。
まだお腹が大きかった時に、
偶然、研修中の勇生君にあったのよ。
そしたあの子、明後日結婚式なんですよって。
うちの息子の1日前に結婚式だったなんて、
やるわよね。
だけど考えて。
勇生君が出来て、恭也君が出来ないって言うのも
おかしな話でしょ」
文香の勢いは止まらない。