【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
救急車はそのまま、
連絡が取れたとこで動き出した。
救急車に乗り損ねた私も、
タクシーをもう一度捕まえてって思ってたら、
多久馬先生の患者さんらしい近所の小父さんが
すぐに車を出してくれて、
救急車の後を追いかけてくれた。
病院内に吸い込まれていく
小父さんは、処置室へと運びこぱれていく。
私は救急車からゆっくと降りようとする
おばさんに手を出して、介護しながら
病院の中へと入っていった。
看護師さんに縋るように、
絞り出すように、何度も何度も続ける
不自由な言葉で伝える小母さま。
「すいません、多久馬です。
どんな状態ですが?」
小母さんにかわって、用件を告げる。
「西宮寺教授が治療にあたっておられます」
西宮寺教授?
そうこうしている間に、
白衣を翻しながら、勇生君が姿を見せた。
「勇生君……」
「恭也、今手術室で手が離せなくて。
小父さんは、俺の親父が見てるはずだから。
親父、心臓外科育ちだけど今は救命の教授なんだ」
親父?
勇生君のお父さんは、
大学の教授だったの?
勇生君の言葉に驚きながら、
私の視線は、処置室のカーテンに意識が行く。
暫くして、出て来たそはの人は、
私たちの顔を見ると、
ゆっくりと首を横に振った。
そのまま、おばさんは力が抜けてしまったように
床に崩れ落ちて倒れる。
そんなおばさんを慌てて、衝撃が少ないように
勇生君が支えた。
「部屋を取って休ませて来るよ」
勇生君はそのまま、おばさんを抱きかかえると
何処かへと走って行った。
残された私に、
勇生君のお父さん、西宮寺教授は向き直る。
「君は?」
「結城神楽と申します」
「あぁ、君が……神楽さんか。
話は恭真(きょうま)から聞いているよ。
私と恭は、腐れ縁でね」
そう言うと、
西宮寺教授は、私は多久馬家の身内として
死亡に至るまでの経過を伝えてくれた。
「家内がせめていたらな。
こんな結果にならずにすんだんだが……」
教授は小さく呟くと、
ゆっくりとその場から離れた。
処置室からは、
シーツに覆われたストレッチャーが運び出される。