【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「神楽さん……」
小父さんの後をついていく、
私を呼び止めたのは勇生君。
「おばさんは?」
「あぁ、おばさんは大丈夫。
小父さんも今から、
エンゼルケアに入るから」
そう言って勇生君は腕時計に視線を落とす。
「恭也がオペ室から出てくるまで、
後、二時間くらいかな。
少し時間貰っていい?
死亡診断書は、親父が書いて
後で恭也に手渡すと思うから」
そう言うと、勇生君は
私をエスコートするように、
喫茶店へと案内した。
促されるままに、
温かい紅茶をの口に含む。
紅茶の温かさが、
緊張からか体温が低下していたことを
私に気が付かせてくれた。
「あのさ、神楽さん。
恭也の親友として率直に言うよ。
アイツのこと、どう思ってる?」
真っ直ぐな眼差しで切り込んでくる
このやり方は、
出逢った高校生の頃から何も変わらない。
「恭也のことは愛してるわよ。
私には勿体ないくらい」
そう……私には勿体ないくらい。
だからこそ、私は臆病になる。
結婚することにも、
花嫁になることにも憧れる癖に
私の独占欲で、
恭也の未来を奪ってしまいそうな気がして
踏み込めない。
だから……。
「そっか……。
俺が心配することじゃなかったか……。
でも安心した。
神楽さん、アイツの事頼んだから」
そうやって告げられた勇生君の言葉に
静かに頷いた。
エンゼルケアーが終わった、小父さんは
地下の霊安室へと移されたと
小母さまが眠っていた病室に、
看護師さんが連絡に来てくれて、
私たちは、病室から霊安室へと移動していく。
体の不自由な小母さんの背に
手を添えながら。
霊安室に辿りついた時には、
恭也が白衣を乱しながら駆けつけて来てた。
先に葬儀屋さんと何かを話しているようだった。
だけど恭也の表情は
小父さんの死を知らされたショックからか
全て打ち消して、閉ざすように
淡々とこなしているだけのようにも見えた。