幸せになりたい女
SEVEN
《出張だった。鍵は返す。部屋はお前がそのまんま使え。どうせお前の名義で借りてんだから》
 卓ちゃんから一週間ぶりにメールが来た。
 出張? 美久がイヤで出て行ったんじゃなかったってこと? 美久の早とちり? 美久と別れるってことじゃなくて・・?
 でも卓ちゃんは美久に部屋を譲る気マンマンなんだから、やっぱり別れるんだ、美久たちは。それでもいい。だって卓ちゃんがメールくれるまでの一週間、勝久くんとは毎日何十回とメールして、ほぼ毎日のようにごはんを食べに行った。
 すごいなぁ・・一週間で人の気持ちってこんなに変わっちゃうんだ。卓ちゃんのこと考えても切なくなんない。
 卓ちゃんと普通にメールしてる自分が不思議だった。
《次、住むとこあんの?》
《とりあえず弟んとこにいる》
《そっか、じゃあ大丈夫だね》
《おう。鍵は家に着払いで送ればいいか?》
《ちょっと! 着払いとかケチくさいことやめてよぉ。どっかでごはん食べるついででいいじゃん!》
《分かった。じゃあ、明日新宿で七時な!》
 相変わらず勝手に強引に場所も時間も決めちゃうんだからぁ・・別にいいけど。
 そういう強引さが嫌いじゃなかった。でも今は優しい勝久くんとのほうが居心地がいい。
 明日は勝久くんに残業だって嘘ついちゃえばいっか・・

 うわさをすれば美久の携帯が勝久くん専用の着信音を鳴らした。
『今仕事終わった! ちょっと残業になっちゃったよ。美久ちゃんはもう家?』
「うん! お仕事お疲れ様」
『ありがとう! ごはんは食べた?』
「ううん、まだ! 勝久くん待ってた」
『ほんと? 嬉しいなぁ。じゃあ、美久ちゃんの家の近くで何か食べよう』
 こうやって当たり前のように約束ができる関係っていい。幸せ、感じる。
 勝久くんは優しいし、仕事も安定してる営業マンだし、将来のこと考えると、やっぱり卓ちゃんより勝久くんのほうがいいに決まってる。

 来年には結婚しちゃったりして・・
美久の頭の中には広瀬香美のロマンスの神様が流れていた。

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