幸せになりたい女
 駅近くのイタリアンで待ち合わせした。高そうなお店で美久は一度も入ったことなかったけど、勝久くんはスイスイ入っていく。レストランは思ったとおり高くて、でもおいしくて、またワインもどんどん飲んじゃって、美久はワインなんか飲めなかったのに、今だってなんでおいしいか分かんないのに、なんでだか勝久くんと一緒だととってもおいしい!
 勝久くんはパンにつけるオリーブオイルの種類まで知ってて・・ほんとにすごく素敵。

 このまま幸せが続くといいな。

「え? なんていった? コン・・?」
「コンゴ民主共和国!」
「みんしゅ・・きょうわこく・・? ほんとにある国?」
「はは! あるよ、ある! 非営利活動団体の一つで、その団体に所属してなくても一般の中から海外派遣者を募集してるとこがあるんだ。その派遣先がコンゴ民主共和国ってとこなんだ」
「ふぅん・・よく分かんないけど、あんまり聞いたことない名前だから、ファンタジー映画かなんかに出てくる国かと思ったぁ」
「アフリカ大陸の中央部にあるんだ」
「アフリカ・・」
「それでね、オレ・・」

 なんだかイヤな予感。

「オレ、それに参加しようかと思ってるんだ」

 やっぱり。

「・・す・・素敵だね! でも会社とかは? そういう派遣って長く休まなきゃいけないんじゃない? 大丈夫なの?」
「今日、退職届出してきた!」
「え? 休暇じゃ・・なくて? 退職なの? なんで? そんなに長くいくものなの?」
「派遣期間自体は数ヶ月だと思うけど・・中途半端なことはしたくないんだ。できれば貯金が続く限りは向こうに残れるようにしたい」
「・・」
 なんて答えればいいか分からない。美久がぼぉっとしてると、勝久くんはいつもの優しい笑顔になった。
「ここまで本気で考えて行動に移せたのは美久ちゃんと出会えたからだよ。美久ちゃんが頑張って、応援してるって言ってくれたことが一番大きかったんだ。オレ、サラリーマンやってる場合じゃないなって。ちゃんと自分の道進んで、好きな子に胸張って会えるようになりたいって思ったんだ」

 キラキラした目で話す勝久くんに、美久はなんて言えばいいの?

 美久はどうなるの? これから始まる恋はどこにいくの?

・・・頭の中にいろんな言葉が浮かんでくるのに、美久の口から出たのは、いい子ぶったセリフ。
「・・頑張って! 美久、遠くから勝久くんのこと応援してる!」
 涙目になってないかな? お酒飲むといつも目が潤んじゃうから、勝久くんは気付かないかもしれない・・。
「うん! 向こうに行く日までは、こうやって、ごはん食べに行ったりしような」
 満面の笑顔。
 ごはん食べて何になるんだろう・・どうせいなくなっちゃうのに・・。
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