幸せになりたい女
 その後はワインも料理もすすまなかった。勝久くんは、そんな美久の気持ちにも気付かずに、上機嫌でボトルの半分以上を飲んでいた。
「美久ちゃんは、お酒弱いからなぁ。ほとんどオレが飲んじゃったね」
「・・うん・・勝久くん、酔ってる?」
「酔ってないよ!」
「うそ。酔ってるよ」
 だって美久が心から笑ってないのに、ヘラヘラしてるもん・・。

 勝久くんが家まで送ると言ってくれたのをムリに断って、駅で勝久くんを見送った。すぐに携帯を出したら待ち構えてたかのように、画面が受信中と表示された。

《今日も楽しかった!》

 バイバイしてすぐに送ってくれる勝久くんのメール。いつもは嬉しいのに、今日は複雑。
 画面をスクロールしていくと、最後に「今週末はまた美久ちゃんの部屋に行ってもいいかな? ハンバーグ、そろそろ食べたいなぁ・・なんてね!」とハートマーク付で書いてあった。今度は、はっきりとイヤな気持ちになった。勝久くんが無神経な人に思えて、メールに返信できない。
 弘子に電話しよう。ふいにそう思った。だって勝久くんは弘子が美久に紹介したんだもん。

『どうしたの? また卓のこと?』
「ちがうよ。勝久くんのこと」
『勝久くん?』
「うん、あのね、勝久くん・・今度、なんとか共和国みたいなとこに行くんだって・・」
『共和国? 外国ってこと?』
「うん。コンゴ・・なんとかって言ってた」
『コンゴ? どこそこ』
「うーんと、アフリカのどっかだって」
『ふ~ん。海外で仕事したいって言ってたけど、だいぶマイナーなとこに行くんだね』
「うん。それでね、それなのに美久の部屋に遊びに来るとか言ってんの」
『うん? それがどうかしたの?』
「え・・だって・・」
『それより卓はどうしたの?』
「え? 卓ちゃん? 卓ちゃんはもう部屋にいないよ。明日合鍵も返してもらうし」
『卓のことはもういいの?』
「うーん・・別にいいわけじゃないけど・・まぁ、しょうがないよね・・」
『だったら別にいいんじゃない? 勝久くんが美久のところに行っても』
「だって・・まだ付き合うとかじゃないし・・友達・・だし、それに遠くにいっちゃうし!」
『友達なら遠くに行くことは関係ないんじゃない?』
「だって・・」
『勝久くんは大丈夫だよ。卓みたいに見境なく女に手を出す人じゃないし・・それに美久の家に泊まりに行くのは初めてじゃないんじゃない? ちょっと悟から聞いたんだけど・・』
「あ・・うん。そうだけど・・」
『じゃあ、そんなこと気にすること自体、ホントに今更じゃない?』
「・・」
 その時と今とじゃ状況が違うもん。でもいくら説明しても弘子は絶対分かってくれない気がした。弘子との電話の途中、勝久くんからまたメールがきた。
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