幸せになりたい女
EIGHT
「肉! 肉食うぞ!」
 こっちの意見なんてなんにも聞かずに、スタスタと繁華街の中に入っていく卓ちゃん。
 相変わらずだな~。
 ちょっと微笑んでしまう。子供を見守るお母さん的な気持ちかな。

「おまえ、元気だったのか?」
 席に着くなり、ジョッキの半分を一気に飲んだ卓ちゃんは、メニューを開きながら聞いてきた。
「うん。元気だったよぉ・・まぁ、淋しかったりもしたけど・・」
「へぇ、淋しかったんだ?」
 卓ちゃんがSの顔を一瞬見せた。その顔が好きだった。卓ちゃんは、ニヤニヤしながら、カルビとロースを三人前ずつ注文し出した。
「あ、ハラミとタンも頼んでぇ」
「じゃ、それは二人前ずつな。そういえば、美久、キャンプ楽しかったのかよ?」
「うん。普通に楽しかったよ。卓ちゃんは? 旅行だったんでしょ?」
「弘子に聞いたのか?」
「そうだよ。女の子と行ったんでしょ?」
 上目遣いに睨む。
「男同士だよ!」
「ふぅん・・」
 店員さんがお肉を持ってきて会話は止まった。美久はいつもどおりお肉係りになって、焼けた肉から卓ちゃんのお皿に乗せていく。
「おぅ、サンキュ・・悟がおまえのこと可愛いって言ってたぞ」
「えぇ? ほんと? 嬉しいなぁ。でも弘子に悪いかも」
「悟の会社のやつもいたんだって?」
「うん」
「そいつはどうなの?」
「どうなのって?」
「・・そいつもおまえのことかわいいとか思ってんじゃね?」
「知らないよぉ、そんなこと」
「そいつと結構仲良くしてんだろ?」
「別にそんなことないけど・・」
 
 ふぅん・・気にしてんだ、勝久くんのこと・・へぇ、ふぅん・・そっか・・。
 なんかちょっと嬉しい。

「おまえ・・ホレられてんじゃねぇの?」
「え~・・? わかんないよ、そんなの。知らないもん」
「・・おまえ・・いい奴だからな」
「なに、急に」
 焼きあがったお肉をまた卓ちゃんの皿におく。今度は美久もハラミをひとつ口に入れた。口を動かしてないと顔がゆるみそう。
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