幸せになりたい女
FIVE
・・・嘘。なんで?

 キャンプから戻ると卓ちゃんはいなくなってた。
 ちょっと出掛けてるわけじゃないのは、窓際のフィギュアがなくなってるので分かった。部屋は卓ちゃんカラーの黒のまんまだけど、家具だってそのままだけど・・いつもグチャグチャに置いてあるムダに多い充電器はないし、脱ぎっぱなしの服もないし・・・
 卓ちゃんが・・卓ちゃんの日常が・・なくなってる・・
 震える手で弘子に電話した。さっき解散したばっかりで、まだ悟くんが一緒かもしれない。それでもかまわない。そのほうがいい。少しでも卓ちゃんに近いところに連絡したい。
『もしもし? 美久?』
「・・どうしよう・・」
『え? 何? どしたぁ?』
「卓ちゃんが・・いないの・・」
『・・え?』
「どうしよう・・出て行っちゃったよ・・」
『ちょっと出掛けてるだけじゃないの?』
「違う!」
『・・大丈夫だよ。今日、旅行から戻ってくるんでしょ? また渋谷のほうに行って酔いつぶれてるんだって。卓、そういう奴じゃん』
 違う、違う・・! 絶対違う! 卓ちゃんはこの部屋から出て行ったんだ。美久が他の男と遊びに行ったから。弘子はダメだ。分かってくれない・・美久は黙って電話を切った。手の震えが止まらない。胃も痛くなってきた。吐き気もする。
 
 ・・だれか・・助けて・・!

 怖くて卓ちゃんへの短縮ボタンを押せない・・でも指は勝手に携帯を操作する。思ったとおりすぐに機械音して、美久は携帯をベッドに投げつけた。現実を受け入れられなくて、涙がでない。胃だけがどんどん痛くなる。
 携帯を投げつけたベッドに自分の体も埋める。このベッドに一人で眠ることを想像してまた胃が痛くなる。お腹を両手で押さえたとき、携帯から軽快な音楽が流れた。
 卓ちゃん!
 急いでメールボックスを開いた。でもそれは卓ちゃんじゃなくて、登録したばっかりのアドレスからだった。

《今日はおつかれ! 楽しかったね。また近いうちに飲みにいこう! あ、海もね》

 勝久くんのお気楽なメールが美久をほっとさせてくれる。勝久くんの彼女だったら幸せだ。こんな思いしなくて済む・・
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