私をブー子と呼ばないで

　助手席の窓をさげて、スーツ姿の翔太が運転席から手を振っている。

　私は車に小走りで近づくと、翔太が中からドアを開けてくれた。

「ごめんな。急な仕事が入ってさ」

「え？」

「とりあえず乗って。アパートまで行くから」

「うん」

　私は助手席に座ると、車を運転する翔太を見た。

　車を運転してる。

　なんか……違和感。

　私の知っている翔太って、まだ高校生の姿で止まってるから。

　車を運転してる翔太を見ると、きゅうに大人になったみたいに見えちゃう。

「部下が、ちょっとミスちゃって。まだその対応におわれてるんだ」

「大丈夫？　私、帰ろうか？」

「いやいや。夜までには終わらせるから。ブー子はアパートで待っててよ」

「いいの？」

「ん、平気。それよりごめんな」

「ううん。仕事なら仕方ないし。無事に処理できるといいね」

「ありがと」

　翔太が疲れている横顔で、笑みを作った。