私をブー子と呼ばないで
 私は職業上、爪に色なんてつけられないし、ピアノを弾くから爪を伸ばすこともできない。

 綺麗にネイルした爪で、どこかで出かけたいって私だって思うよ。

「お待たせしました~」と店員の陽気な声が、個室に響いた。

 さっき智美が押したボタンに店員が気づいてくれたのだろう。

「ブー子、焼き鳥食べる?」

 翔太がメニューを広げながら聞いてくる。

「あ。うん。食べる」

「オムライスは?」

「いいよ」

 翔太が店員に追加注文を頼み、智美も焼酎を頼んだ。

「今日は食欲が無くて……」

 智美が細い腕で、胃の上を擦った。

「どうした?」

 メニュー表を床に置いた翔太が生ビールを口にする。

「仕事がうまくいかなくて。なんかテンションさがるよ」

「ま、そういう日もあるだろうよ」

 翔太が智美の背中をポンポンと叩いた。

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