私をブー子と呼ばないで
「ほんと、ブー子は羨ましいよ。仕事だって、幼稚園じゃん。子どもと遊んでいれば一日が終わっちゃうんだもん。ちょー、いいよ」

 また始まった。

 私はぎこちなく笑みを浮かべると、カシスオレンジのカクテルを飲んだ。

 智美と翔太は、幼稚園教諭の大変さを知らない。

 ただ子どもと遊んでいればいいと思ってる。

 もちろん遊ぶけど、それ以外にもちゃんと仕事はある。

 智美も翔太も大変だろうけど、私だって大変だ。

 私だけが楽しんでいるわけじゃないのに。

「でも、幼稚園の先生って、ブー子にぴったりだよね。子ども好きだし。ピアノも上手じゃん」

「あ、ありがと」

 私はまたカシスオレンジを口にする。

 幼稚園の先生になるは、夢だったから。

 ぴったりって言われれば、そりゃ嬉しい。

 でもやっぱり、智美たちの仕事の大変さの対象にされるのはちょっと辛い。










「あー、飲んだ! 今日は良い気分で眠れそう」

 智美が店を出ると、背伸びをして気持ちよさそうに叫んだ。

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