はだかの王子さま
 けれども。

 当の星羅は、ちっとも慌てなかった。

 彼は、わたしに、にこやかに笑うと、目をまん丸に見開いてるウェイターさんに、獣の左手を振ったんだ。

「……やっぱり『これ』に興味ある?」

「えっ……あの……そのっ!
 ……はい!」

 お世辞にも高価、とは言えない食事が売りのファミレスで。

 年齢(とし)もわたしと同じぐらいの、きっと、ただのアルバイターな、ウェイターさんが、星羅の言葉に、うんうん、とうなづいた。

 そんな彼に、星羅は、にや、と人の悪い笑顔を向けると、言った。

「残念~~☆
 君たちが、どんな期待をしているのか、謎だけど。
 これ、実は、タネも仕掛けもある、ただの手品だったりして」

「「……へ?」」

 ざわっと、騒然となるファミレスのお客達の前で、星羅は、わざわざ立ち上がり。

 店内で、星羅を見つめている人々に向かっても獣の手を見せびらかすと。

 次の瞬間。

 ダンスのようになめらかな動きで、右手で、獣の手に変わった左手首を握り、そのまま。

 まるで、手袋を脱ぐように、左手を引っ張った。

 と。

 
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