はだかの王子さま
 

 なんで!?


 そう思ったのは、わたしだけじゃなかったみたいだった。

 こっちに向かって、体重をかけるように突っ込んで来た黒衣のヒトが、つんのめってたたらを踏むと、ぎりっと睨んだ。

 わたしじゃなく。

 賢介のお母さんの方を……!

「なぜ邪魔をするんです、レディ・マリオネッタさま!
 あなたの人形つかい(マリオネッタ)の糸のせいで、ヴェリネルラが切れません!
 シャドゥ家は、フルメタル家の次代の当主さまに従うはずではなかったのですか!?
 それなのに!
 シャドゥ家当主の奥様であるあなたが邪魔をして、どうするんですか!」

 ……って、偽救急隊員は怒鳴ったけど、賢介のお母さん、なにか、した?

 世の中の平均値よりは、たぶん上品な部類には入るだろうけど。

 壊れた家と。

 倒れたわたしを見つけて、おろおろしているフツーのおばさんに見えたのに!

 賢介のお母さんは、意外にしっかりとした足取りで近づくと、わたしと、偽救急隊員の間に入った。

「下端(したは)とは言え、さすが忍者の一族。
 あなた達を束ねるはずの私でさえ、一瞬。
 本物の救急隊員の方が来てくださったのかと、思いましたよ」

 賢介のお母さんは、そう言ってにっこり笑うと、きり、と真剣な顔になった。

「シャドゥ家当主の決定には、もちろん従います。
 でも、あの方がおっしゃっていたのは『フルメタル家の次代の当主に従う』であって『ローザ』さまに従え、とは一言も無かったように思いますが?」

 だから、わたしを助けたんだって。

 そう、賢介のお母さんは、背筋を伸ばして言い切った。
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