はだかの王子さま
 賢介のお母さんが、ここ、何年かでめっきり体調を崩したのは、濃いグラウェのせいだって、偽物の救急隊員が言った。

「このままでは奥さまは、グラウェに蝕まれて死んでしまうのですよ!」

「……だからなんだ、と言うのです?」

 叫んだ黒衣に、賢介のお母さんは静かにため息をついた。

「シャドゥ家に嫁いで来た以上、フルメタル家に従うは必至。
 ファングさまの『罪』とて、私の良心に照らしても悪逆非道なものではありません。
 しかも、シャドゥ家の当主が自らついてゆく、と言ったなら。
 その妻である私が従わなくて、どうします?」

 言って彼女は、きりりとにらんだ。

「フルメタル家を唯一の君主として、従ってから、何代も重ねて長く経ち。
 当初に比べて大分緩んだとはいえ。
 私達の存在意義は、フルメタル家と共にあります。
 信念を捨て、道理を曲げて、ただぼんやりと生き延びるなら。
 今すぐ、死んでしまった方がましです」

「オレは、まだ死にたくない!」

「話になりません!」

 わたしには、全く見えなかったけれども。

 賢介のお母さんは、ぐーの手で両手を突き出し、開いた。

 その途端。

 まるで、絡んだ糸を振り払うかのように、黒衣の偽救急隊は、元バインダーだった刃物を振りまわし始めた。

「くそ。糸が!」

 なんて言っているトコロを見ると、賢介のお母さんが何かしてくれたみたいだけど……
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