はだかの王子さま
『ソドニ! 行け!』

 ハンドの風に半分千切れながら、王様の声が、確かに聞こえた。

 夕闇が忍びより、暗く陰りだした時刻でありながら。

 地上に一瞬、真昼の太陽の光を見たと思った。

 白薔薇宮殿の屋根の上に、人影が飛び乗った次の瞬間。

 その人は、強い光に包まれたんだ。

 そして。


 ガギャアウォォォオン……!!


 空気を震わす、ものすごい声に驚いて、ハンドに抱かれたまま、後方に消えかけてゆく風景を首を伸ばして見れば、そこに。

 莫迦でっかい黒い竜が出現し、白薔薇宮殿の北塔に張り付いていた。

 その様子は、むかーーし、テレビでやってた古い映画の傑作選で見た、キングなんとかって言う大猿の化け物か、ハ虫類だか、ワニだかが巨大化して、街を襲うゴジなんとかって言うヤツみたい!


 それが、こっち向かって飛んで来る……っ!


 塔に張り付いていた黒い竜は、王さまを乗せて二、三度羽ばたいたかと思うと、ぶわっと風を巻いて力任せに飛んできた。

 ハンドは、追いかけてくる竜から逃げようと、フェアリーランドを飛び出して。

 人工島キングダム・リゾートからも離れてゆこうとした。

 こ……このままじゃ! 東京湾に出ちゃうんじゃない!?

「きゃーーっ! ハンド! ハンド!」

 後ろから大迫力で迫ってくる黒竜も怖かったけれど!

 空をひた駆けるハンドに、切羽詰まった状況を知らせようと、ぱっ、と前を向いたその途端!

 もっと怖い光景を見てわたしは息をのんだ。

 津波!?

 ううん!

 水の壁だ……!

 わたしたちの行く手。

 人工島キングダムリゾートのふちに沿うように、ビルよりも高い。

 そして、信じられないほど分厚い水の塊が『壁』になって立ちふさがったんだ!

 どうやら、王さまとソドニは、わたしたちをキングダムリゾートから出す気がないらしい。


 きゃゃゃやぁぁあ!!


 ぶつかる!


 ぶつかる!!


 絶対、水の壁に突っ込んじゃう!!
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