はだかの王子さま
 けれども!



 ひゅおぉぉぉおん!



 ハンドは、風をきり、蝶の羽をほとんど垂直に傾けると、水の壁を、滑るようによけた。

 まるで、サーフィンで波に乗るみたいに、どこまでも続く水の壁に触れる寸前を飛んでゆく!

 そんなハンドは、とてもカッコ良かったけれど!

 ち、ちょっと……!

 東京湾って世界一、船で混み合う海って聞いたことあるよ!?

 例え、キングダムリゾートの周辺だって、立派に船の混み合う海域だ。

 なのに、こんな水の壁なんていきなり出現させたら、行き交う船にぶつかって、大事故になっちゃうじゃない!

 現に、今!

 たった今、漁船っぽい小型の船が一そう、わたしたちの目の前を、横切るように通過しようとしてるじゃないの!

 小型船の行く手には、王さまだかソドニだかが作った壁が立ちふさがってて、このままじゃ、絶対壁にぶつかっちゃう!

 と、思った途端だった。

 小型船は水の壁にぶつからずに、水の壁を垂直に登っていく……って、えええええっ!

 なにこれ!

 なにこれ!

 信じられない……!

 重力無視の不思議な光景が、目の端に飛び込んではきたけれど!

 その横を駆け抜けるハンドの速さに、その信じられない光景は、あっという間に、後ろのほうに飛んでった。

「ハンド……!!」

「王の『幻影』です」

「そ、そっか!
 この水の壁が幻なんだ!
 だから、あの船は、壁があるのにも止まりもせず、水の壁に垂直に張り付いても、中に乗っている人たち、何事もないみたいに平気なんだ……」

 こっちは、半分パニックを起こしているのに、ハンドは至極冷静に答えて、わたしの方を見もしない。

 その様子に、わたしはちょっとほっとして言った……のに。

 ハンドは、あっさり切って捨てた。

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