はだかの王子さま
 王さまは、星羅の姿のまま、ソドニの頭に貼りつくように乗り、わたしに向けて手をのばした。

『ヴェリネルラ!
 なぜ、我から逃げようとする!?
 我は、ビッグワールドの王だぞ!
 国で一番美しい姿も、手に入れた!
 なのに、我から逃げ出そうとは、何の不満があるのだ!』

『何の不満があるか、ですって!?
 『全部』よっっ!!』

 王さまが星羅じゃない時点で、完全にアウトだ。

 お金持ちでも、キレイな星羅と同じ姿を手に入れたとしても『本物の星羅』じゃないと意味がないじゃない!

 王さまは、誰かを好きになったことなんてないのかな?

 わたし、星羅の外見で好きになったわけじゃない。

 何しろ、ついこの間まで星羅は、二本足で歩く、ぬいぐるみみたいな獣(おおかみ)さんだったし!

 王子さまの星羅だって、それなりにお金持ちなんでしょうとも、高価なプレゼントをもらった覚えはないし、これからだって、いらない。

 出会ったときには、悲しげだったのに、会うたびにだんだん優しくなった星羅の瞳が好き。

 わたしと一緒に、楽しそうに笑ってくれる、そんな声が好き。

 お父さんが、仕事で忙しかった上、学校で、クラスメートとすれ違って、心が寒くなったときだって。

 黙って、ぽふっと抱きしめてくれた、星羅のあったかいココロが……好き。

 星羅に会って、もう十年にもなる。

 最初の出会いは本当に小さく、小学生だったし。

 出会ってから十年間ずーーっと『彼氏』だったわけじゃないけど。

 わたしの大切な時間と心の中には、必ず星羅がいる。

 なのに、キレイな外見ばかりを似せた偽者なんて、気持ち悪いだけだもの!

 王さまが、王さまの姿のまま、がんばって近づいてくるなら。

 もしかしたら、ちょっぴりぐらい希望があったかも知れなくても、星羅の姿をしている時点で絶対、絶対無理だ。
 
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