はだかの王子さま
 一応、一般の船がいないところから崩れてきているけれど、ソレが却って不規則になっていた。

 わたしを抱えて飛ぶハンドに向かって襲い掛かるように落ちてゆく。

 滝のように『流れる』感じではなく。

 巨大な雨粒のように『どんっ』『どんっ』『どんっ』と水は重量感を増して降ってくる……!

 それは、もう。

 水に濡れると飛べなくなる、なんていうレベルの問題じゃなく。

 落ちてゆく、崩れてゆく、大きな水の塊に巻き込まれたら、それだけでただではすまないのは確実だった。

 それでもハンドは、最初、風の力を使い、幻の手で力任せに水の塊を跳ね飛ばそうとしたみたいなんだけど!

 水の塊は、思うように、動かなかったらしい。

「……重過ぎる」

 ハンドはそうつぶやくと、力任せを諦めた。

 代わりにぐっと自分の飛行速度を落とすと、その巨大な水滴の合間、合間を縫うように蝶の羽を傾け、かわして進んで行く。

 立て込む水の塊を三回、四回は上手く交わし。

 五回六回も大丈夫だったけれど!

 やがて、とうとう、水の粒に塞がれちゃった……っ!

 それは、一瞬の出来事だった。

 ハンドの行く手にひときわ大きな水の塊が落ちて来たんだ。

 そして、逃げ場になるハズの真横にも、水の塊がある。

 挙句の果てに、ダメ押しでわたしたちの真上から、でっかい水の塊が降って来る。

 もう、逃げることなんてできなかった。

「……!」

 ハンドは、奥歯をかみ締めるように表情をゆがませた。

 今まで水の塊の間をすり抜けるために、本物の海面に対してほぼ垂直に傾けて飛んでいた体勢を水平に戻す。

 ……って!

 これじゃ、ハンドだけが、でっかい水の塊をかぶることになるんじゃない!?

「ハンド、だめ!
 そんな風に、わたしを庇っちゃだめよ!」

 羽は濡れたらいけないんでしょう!?

 そう、続けて叫ぼうとしたときだった。
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