はだかの王子さま
『ソドニ!
 もう一度だ!
 もう一回壁を崩して、その虫を止めろ!』

『王よ!』

 蝶の死骸が、かろうじて空に浮き、風に流されているように見えるかもしれない。

 そんなハンドの様子に、ソドニはためらったのに、王さまは、また、黒竜の角を引っ張った。

『うるさい!
 さっさとやれ!』



 ギュユォォォオォォオン


 今回は、完全に不本意だったらしい。

 ソドニ自身も泣いているような咆哮に乗せて、水の塊が再び降ってくる。

 羽が無事なら、かわせる隙間がありそうな巨大な水滴も、今回は無理だ。

 ハンドは、もう、羽を海面に対して垂直に傾けることも出来ない。

 まわりを、水の塊で小さく固めなくてもいい。

 そんな大きくなくてもいい。

 握り拳ぐらいの水の塊をハンドの大きな羽にぶつければ、確実に落ちる。

 足元に蒼く広がる海面に……!

 なのに!

 こちらに飛んで来たのは、最も大きな水の塊だった。

 ハンドの行く手をふさぎはしなかったものの。

 小さめの家、一軒ぐらいのヤツが、わたしたちに向かって飛んで来た。

 もうダメ!

 逃げられない!

 と思って思わず目を閉じた、そのときだった。




 ブォオォッ



 わたしの耳に聞こえたのは、ハンドが大量の水に押し流される『ドバシャッ』っていう音じゃなく。

 突然風が切り裂かれ、渦巻く、音。

 顔にかかったのは冷たい水滴では無く……一瞬の、熱風!!

 何が起こったんだろう!?

 予想していたことと、まるで違った感覚を、耳が、肌が知らせてくる。

 その様子に、そっと目を開ければ。

 わたしは、信じられない光景を、見た。

 
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