はだかの王子さま
 

 海水が、燃える……!!


 ヒトが暮らせる家一軒分ほどの、とんでもない大きさの海水でできた壁の一部が。

 光を放ち、まるで爆発するみたいに燃えていた。

 その様子は、まるで巨大な火の玉。

 学校の理科の実験で、見た。

 水を電気分解して水素と酸素に分けて、爆発させた炎と同じように見える……けれど、規模が全く違った。

 わたしよりも、大きな羽を広げたハンドよりも。

 王さまを乗せて迫る、巨大な黒い竜よりも。

 何倍も、何倍も大きな炎の塊が一瞬で燃え上がり、消えつつある。

 とても大きな炎だったのに、すぐ近くのわたしには、少し熱い程度で、全くやけどの心配は無く。

 もしかしたら、耳を貫く轟音が伴っていたかもしれない、空気の流れは、力を振り絞ったハンドが制御してたかもしれない。

 水が燃える、なんて目の前で起こったことが、まるで夢の世界のことのように見えた。

「なに……よ、これ」

 ふらふらと飛ぶ、ハンドの腕に抱えられ、呆然とつぶやけば。

 大量の水滴の中に飛び込んで、難を逃れたらしい、黒竜と王さまが、ぐっしょりと濡れた身体を震わせて叫んだ。

『邪魔をするな! ゼギアスフェル!!』

 ゼギアスフェル!?

 これは、星羅の炎だって言うの!?

「星羅……!」

 どこよ! どこにいるの!?

 力尽きる寸前のハンドの邪魔をしないように。

 けれども必死に辺りを見渡せば……いた!!

 わたしたちの目指す迷宮の入り口より、少し離れた岩場の上に。

 長い月光の金髪を逆巻く風になびかせた、人影が……!

「星羅!!」

 わたしは、声の限りに叫んだけど、星羅には聞こえなかったのか。

 それともハンドの羽が邪魔して、わたしが見えなかったのかな?

 星羅は「真衣!」って答えてくれなかった。

 けれど彼は、すばやく岩を飛び移り、ハンドが目指す迷宮の入り口に移動するのが見える。

 その、黒々と穴を開けた洞窟みたいな迷宮の入り口には、美有希もいてハンドに手を振っていた。

 あそこまで、たどり着ければ、大丈夫、なんだ……!
 



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