はだかの王子さま
 童話の中の『王子さま』は、ただただ、キレイな格好して白馬にまたがり、狩りをしているか。

 キレイなお姫様を抱きしめているだけだけど……星羅は、違う。

 王さまの命令には従わなくちゃいけないし。

 場合によっては、本当にヒトの命を絶つこともある『現実の王子さま』だったんだ。

『ゼギアスフェルは、その身分を手に入れるために、そなたの両親を殺めたのだぞ!?
 そんな男を、ナイトウマイは愛する事が出来るのか!?』

 なんて。

 そんな王さまの声が、耳につく。

 本当は、前の王さまを殺せって命令したのは、あなたじゃないの!? って言いたかったのに。

『直接手を下したのはゼギアスフェルだ』って笑う現王に、何にも言い返せないでいた。


 星羅が好き。


 星羅は……好き。


 だけど、これからも星羅を愛して……ゆけるのかな……?


 明らかに不機嫌だって、誰にでもわかる。

 星羅の地の底から這い出るような『真衣に、触れるな』宣言に、さすがの王さまも、当面はおとなしくするつもりになったらしい。

 このゲストルームに戻ってから、わたしに、無理に迫っては来なくなったけれど。

 ヴェリネルラのワインと、ワインを開ける時に使うらしいナイフを、わたしの目につくところにちゃっかり置いて行った辺り。

 ぜんぜん引き下がる気も、あきらめる気もないようだった。

 そんなヴェリネルラのワインを横目で見ながらでは、王さまの出してくれた豪華な食事なんて、ろくに喉を通らず。

 寝る心地の良い、最高級のベッドの中で、眠れない夜をすごしたんだ。

 そして、わたしの誕生日を明日。

 星羅の誕生日を明後日に控えた、この朝に。

 フェアリー・ランドにやって来たお客さんの笑い声を、階下に聞きながら、ぼんやりと。

 ヴェリネラの花が、咲いて漂い落ちてゆく様子を見てた。
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