はだかの王子さま
 

 はぁ………


 出てくるのは、ため息ばっかりで。

 もう、いくつついたか、とっくに忘れてしまうころだった。


 キィ……


 なんて、控えめな音がして、窓を眺めてるわたしの後ろの、ゲストルームの扉が開いた。

 この部屋に、星羅は一度も来なくて。

 王さまが入ってくるときは必ず『ばったん!!』って乱暴に扉を開いてたから、きっと。

 さっき、わたしが食べなかった朝食を、キッチンに持ち帰ったメイドさんが、また新しく何か持ってきたんじゃないかなって、思った。

 証拠に、ほら。

 何か、甘い、香ばしい焼き菓子の匂いする。

 いつもだったら『いい匂い~~』とか言って、一つぐらいはもらうところなのに。

 今は……なんか、いいや。

 お腹が空いているはずなのに、ちっとも食べる気なんてない。

 特に扉の方なんて気にせずに、窓のヴェリネルラの花を見ながら、ぼんやりとつぶやいていた。

『すみません……まだ、食べたくないので、それ、持って帰ってください』

「ダメよ、真衣。
 ちょっとは、何か食べなさいよねっ!」

 ……え? 日本語?

 わたしのこと『真衣』って呼んだ?

 聞きなれた、元気の良い女の子の声に扉の方を振り返れば、そこに。



 ……美有希が、いた。



「美……!」

 美有希って言いかけ、彼女がいつも学校で見る姿じゃない様子に言葉が詰まる。

 昨日着ていた星羅の『ヴェリネルラのドレス』じゃ無いけれど立派な『お姫様ドレス』だ。

 だから。

「フ……!!」

 フルメタル・ローザって呼びかけようとして、やっぱり困った。

 昨日、やって来て、星羅をさらい、ウチを壊していった……けれども。

 美有希の本音も聞いていたし。

 美有希とゆっくり話す暇なんてなかったけれども。

 王さまからわたしを逃がそうと、ハンドさんを使ってくれたことも、わかってた。

 その上。

 わたし自身もすっごく変わってしまって……

 彼女にどんな顔をして、どちらの名前で呼べばいいかわからなかった。
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