はだかの王子さま
 なるほど、賢介なら、出来るかもしれない。

 昨日は、蜘蛛の糸を張って家を丸ごと一軒『見えなくする』ことが出来たぐらいだもん。

 ヒト一人を意識の外に向けさせるぐらい、簡単なのかな?

 ハンドだって、最初、この部屋に入って来た時は『いきなり出現した』ように見えたことを考えると……

 なるほどね。

 シャドゥ家のヒトの基本技能、なのかな?

 今は、それどころじゃないんだけれど、わたしは、変な所で感心してた。

「あの、ハンドさんは、大丈夫?」

 棚上げした問題以外、今、一番の心配ごとを聞けば。

 美有希は、大丈夫よって笑った。

「さすがに、今は休んでるけどね。
 明日の夜を過ぎれば、動けるんじゃないかな?
 それに、そもそも。
 フルメタル家とシャドゥ家の人間を、白薔薇宮殿の地下迷宮に捕まえておこう、って所が間違いなのよね。
 ハンドの手を借りなくても、地下牢からだって逃げるのなんて、簡単だわ」

「地下牢!
 美有希たち、地下牢になんて入れられちゃったの!?」

 実際に見たことはないけれど。

 童話の牢屋は、じめじめして、最悪だったし。

 テレビの特集でやってた、刑務所の話でも、冷たい檻(おり)に閉ざされて大変な所だったはずだ。

 この騒ぎで、星羅も、お父さんも、ちょっとだけ入ってたみたいだったけれど!

 美有希は、女の子なのに!

 わたしだったら、泣いちゃうかもしれない。

「……真衣ってば、なんて顔してるのよ!
 地下牢って言っても、迷宮内だもの、へっちゃらだわ!」

 だいたい、あたし達は、真衣連れて迷宮に逃げ込むつもりだったのに!

 現王さまって浅はかよねぇ、なんて美有希は笑う。

「だから、真衣もあたしも、白薔薇宮殿に居る今。
 これからすぐ、王が扉から入ってこない限り、もう一度……今度こそ、真衣を逃がしてあげられる……かな?
 ハンドはお父さまの脱走騒ぎと重なってしまった上。
 ソドニに追いかけられて運がなかったけれど。
 本当は、地下に潜ることが出来さえすれば、大丈夫なはずだったのよ。
 真衣ん家のそばに開いている迷宮の出入り口から、こっちの世界に逃げ出してもいいし。
 扉が開くのを待って、ビッグワールドに逃げてもいいわよね」

 家のそばに、迷宮の入り口!

 でも!

 でも、ね。

 真衣に言われて、そういえば、と思うことがあった。
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