はだかの王子さま
愛しいヒトと真実のカケラ
そして、今。
わたしの目の前に星羅が、いた。
白地に金糸の刺繍、長い白マントの『王子さま』の格好じゃない。
メッシュの入った長い金髪を後ろで、ひと括りに結い。
動きやすさを重視した、ゆったりとした白い長袖シャツに、黒い長ズボン。
腰には剣のように差した長短の物差しと巻き尺、ハサミを下げ。
まち針や、縫い針、糸なんかを収めたベルトをつけた、いつものコスチューム・デザイナー、仕立て屋姿だ。
そんな星羅の姿に、わたしは、泣きそうになった。
見慣れた獣の姿じゃなくてもいい。
本物の星羅に会えて、すごく嬉しかったんだ。
けれども。
星羅の方は、部屋の扉を静かに開けて、閉ざし。
それから、一歩もわたしが座っているベッドの側に近づいて来ようとしなかった。
「星羅……?」
星羅は、入り口の花瓶に飾っている、真珠色のキレイな造花に埋もれるように佇(たたず)み。
そのまま、低く声を出した。
「……王の命令で、衣装を作りに来た。
望みは、『花嫁衣装』で間違いないか?」
「う……うん」
星羅の声が、暗く、怖い。
その場の雰囲気に圧倒されそうになりながら頷けば、星羅の影が一段と濃くなった。
「そうか。フルメタル・ヴェリネルラ。
……だとしたら、これが、あなたへの最後の贈り物だ」
「……え?
ちょっと!
フルメタル・ヴェリネルラって!
最後って、何!?」
ちゃんと『真衣』とさえ呼んでくれない。
他人行儀な言いかたに、嫌な予感が『別れ』の形をして降りてくる。
それを星羅自身、自覚しているのか、どうか。
星羅は、わたしのベッドから離れたテーブルの上に、採寸用の道具を並べながら言った。
「あなたの姿は、だいぶ変わってしまった。
最初から、新しく採寸し直すにあたり、多少は私の手が肌に触れる。
不快かもしれないが、すぐ、終わらせる」
なんて。
こちらに完全に背を向けて作業をする星羅は、まるで、知らないヒトみたいだ。