はだかの王子さま
「命も、償いも要らない。
 わたしは、星羅が欲しい。
 星羅といつも一緒で、毎日笑って暮らせる何気ない、毎日が欲しいのよ」

「真衣」

「でも、今まで知らなかったと言っても。
 本当の両親を殺したって言うヒトと、一緒に暮らせるかな……?
 星羅は、今までみたいに、わたしと付き合ってくれるかな?」

 わたし。

 星羅のこと、愛してる。

 星羅の方でも、わたしを好きだって言ってくれてる。

 けれども。

 ……けれども。



 ……多分、今まで通りなんて、絶対無理だ。


 きっと、もう、星羅はわたしを見ても笑いかけてくれない。

 このまま変わってしまったわたしを見るたびに、すまなそうな、困った顔でいるに違いない。

 お互い『好き』なままだったら。

 もしかしたら。

 時間がたてば、ゆっくり戻ってゆくかもしれないけれど。

 わたしには時間がなかった。

 明後日には、王さまが、わたしをビッグワールドに連れてゆく。

 そして、多分。

 この誕生日プレゼントのドレスが出来上がったら。

 王さまは、もう二度と、星羅に会わせてくれないだろう。

 そして、王さまは、わたしをビッグワールドにさらって行ったあと。

 わたしのことを星羅みたいに『ヴェリネルラ』って呼んで。わたしのそばで偽物の星羅をしたまま、笑うんだ。

 そして、わたしは、星羅のことを忘れられず。

 本物の星羅にも近づけず。

 ずっと、ずっと。

 誰も知り合いのいない異世界の、白薔薇宮殿みたいな塔のてっぺんか。

 もし、王さまが約束を守ってくれるなら。

 ゴブリン達が安心して暮らせる、山奥のお屋敷に閉じこめられて。

 気まぐれな王さまの帰りを待つだけのくらしが始まるんだ……

 星羅と、魔剣0を同時に捕まえて見せた、黒アゲハのハンドでさえ、逃げられなかったんだもん。

 どこに逃げても、きっと、王さまが追って来て、未来は無く。

 黒々とした闇が広がっているばかりの先行きにめまいをおこし。

 心が壊れそうに痛かった。
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