はだかの王子さま
 
 ……だから、かもしれない。


 星羅に渡された短剣の鞘(さや)を抜き払ってしまったのは。

 刃渡り二十センチほどの、刃を見たかったのは、別に誰も何も傷つけるつもりじゃなく。

 はじめて、魔剣に『本当の自分』の姿が写って見えたように。

 刃を鏡の代わりにして、変わってしまった自分の姿を見たかったから……だと思ったのに。

 ふっ……と。

 短剣の刃の中に居る、見知らぬ『自分』に引き込まれそうになった……と思った瞬間。


 ぱしっ、と。


 短剣を持つ自分の手を、強く叩かれる音を、人事のように聞いていた。

 そして。

 キーン、カッ、カンッ、っていう、短剣が床に落ちて弾む音と。

 じんわり、と手の痛みが鈍く広がって、ようやくわたしは、我に返った。

「……あれ? わたし……」

「真衣!! ダメだよっ!!」

 星羅は叫んで、わたしを、乱暴に抱(かか)えるように、抱(だ)きしめた。

 わたしは、ただ刃を見てつもりなのに。

 ふ……と、した気の迷い半分。

 反射的に自分の胸に、抜き身の短剣を押し当ててたんだ。

 閉ざされた未来に笑えるほど、希望がない状態に絶望してた。

 この。

 突然変わってしまった自分を見て、陶器でできたような、きれいな肌を裂いたら。

 いつもの自分が、出て来るんじゃないかなって、なんとなく、ぼんやり、無意識に感じてた。

 だから、わたし。

 気がついたら、短剣の鞘を払って、凶器を自分の胸に向けてて。

 驚いた星羅が、わたしの手を叩いて短剣を奪い、抱きしめてくれたんだ。

 背骨が折れるかと思うほど、力強く。

「痛……たいよ。星羅……」

「なぜ君が死のうとするんだ……!」

 その短剣で裂くのは、真衣のカラダなんかじゃなく、僕の胸なのに、なんて。

 強く抱きしめたまま、必死に叫ぶ星羅にわたしは首を振る。

「星羅が傷つくのは、イヤ。
 そして、死んじゃうなんてもっとイヤ」

「それは、僕だって!」

 おんなじ気持ちだよって叫ぶ、星羅の胸の中に包まれたまま。

 わたしは、ささやいた。
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