はだかの王子さま
「一体、ドコの世界に!
 自分の娘のベッドの中に、はだかの男がいるのを見て、笑ってられる父親がいるんだ!」

 叫ぶお父さんに、星羅は、しれっと応えた。

「……はだかって言い方、なんだか卑猥じゃない?
 立派に毛皮を着てるだろ~~?
 これに、不満があるっていうなら、道を歩いてる犬猫や、空を飛ぶ鳥に至るまで。
 全~~部、露出狂じゃ……」

「桜路!!」 

 あははは、と笑う星羅に、十年前、初めて出会ったときに見た、深く沈んだ色は見えない。

 悲しみは消えずにその、心の底に沈んでいるのかもしれないけれど。

 今、とても楽しそうな星羅を見ることが、幸せだった。

「こんな莫迦はほっといて、真衣は朝飯にしよう。
 信じたくはないが、今日もただの平日だ。
 ぼやぼやしていると、学校に送れるぞ」

「ふぁ~~い」

 お父さんに『判った』って返事をすれば。

 傍らの獣が、上目遣いで言った。

「……その朝ご飯。僕のもある?」

「ドッグ・フードを調合した覚えはない」

「ちぇ」

 星羅が残念そうに舌打ちすると、お父さんは、ため息をついた。

「さっさと浴室でヒューマン・アウトして席につけ。
 人間の朝食なら、人数分用意してあるぞ」

 
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