はだかの王子さま
「僕はずっと獣だったし、色恋には、今ひとつ疎いのだけど。
 ビッグワールドでは、処女であることにこだわる男が多い。
 そして、貴族以上の間では、特に。
 血統を守るため、一度子どもを宿した女性は、その相手の男が死ぬまでパートナーを変えてはいけない習慣があり、法律にもなっている」

 だから……と言いながら。

 星羅は、一瞬、話すのをためらい、言った。

「今回は月と星の巡りの関係上。
 一度フェアリーランドの扉が閉じるとヒトの出入りできる異世界への扉は、来年まで無いと聞いている。
 だから、フェアリーランドの大扉が閉まる前に、何とか。
 現王をビッグワールドに返し、僕と真衣が、こちらに残る形で、異界の壁に隔てられ。
 現王の干渉を受けにくい、一年の間に……その。
 ……僕の子どもが出産されているか……もしくは、宿っているだけでも、現王はきっと真衣をあきらめる、と思う」

「……う……ん」

 ……それ……王さまも、似たようなこと、言ってたなぁ……

 このプランは、きっと『確実』なんだ。

 だから、誰と一緒にどこの世界にいるかで、わたしの人生も大きく変わるってことなんだ。

 そして、もう一つ確実なのは。

 今すぐ、を含めた、これから一年以内に、必ず。

 星羅か、王さまのどちらかと初体験をするって言うこと……!



 ……しかも、妊娠するつもりで、最後まで……!



「……怖い?」

 ……え?

 どうやら、わたし。

 会話をしてる最中にしては、だいぶ黙ったまま、らしい。

 星羅に聞かれて、わたしは慌ててぶんぶんと首を振った。

「ううん! 星羅だったらいい。
 星羅なら怖くない……頑張る」

 なんて。

 別に普通の声で言ったつもりだったんだけども。

 どうやら、首の振り方が、一生懸命すぎたみたいだ。

 それを見かねたように、星羅がすまなそうに声を出す。

「……ごめんね、真衣。
 本当なら、こんなこと。
 そうやって『頑張る』ことじゃないよね」

 いくら二人が一緒に暮らすため、とはいえ。

 純粋な愛の行為を『道具』に使うのなんて、本当は、嫌なんだけど、と星羅は、目を伏せた。

 ……でも、星羅も、わたしもわかってた。

 他に手段なんて、無いことが。
< 345 / 440 >

この作品をシェア

pagetop