はだかの王子さま
 

 とんとん すととと とんとん



 小気味良い音は、お父さんが、キャベツを千切りにする音だ。

 お味噌汁が出来た、良い匂いもしてる。

 ウチのお母さんは、わたしが生まれる時に、死んじゃったんだ。

 だから。

 お父さんが、台所に立つのは、いつものこと。

 他の掃除や、家事全般も、実はみんな、お父さんがやってる。

 そ、そりゃあ、ね。

 わたし、もう十六才なんだもん!

 少しぐらいはお手伝いしなくちゃいけないの判ってるわよ!

 だけど、お父さんがさせてくれないんだ。

 ……っていうか。

 お父さんも、食事作り以外の家事をやっているのを見たことがないけれど。

 夜出した洗濯物は、朝にはキレイに畳まれて、タンスに収まり。

 家中、きちんと整理整頓されて、どこを触ってもチリ一つないから、何にも手伝いようがないんだからね?

 決して、わたしが、サボっているワケでは……うん、うん。

 心の中で言い訳して、げんこつを握れば、お父さんの声がする。

「今日の朝飯は、オムレツとキャベツ。
 それと、海苔。
 ワカメの味噌汁だ。
 キャベツを切ったら食い物をよそうから、テーブルに持っていけ」

 やった♪ お手伝いだ~~♪

「は~~い。
 ありがとう。
 お父~~さん大好き」
 
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